医療情報DBに関する記事

NDBではどんな研究ができる?編集部による論文調査結果

はじめに

レセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database: NDB)は、2014年度末時点で全レセプトの90%以上の情報を格納する、悉皆性の高いレセプト情報のデータベースです。1)また、特定健診・特定保健指導の情報と紐付けることで、様々な角度から活用できる可能性を備えたデータベースとしても期待されています。

今回は、NDBを使用した研究の疾患領域と研究テーマを調査し、その内訳をまとめました。
本記事が、NDB研究を検討している方にとって、疾患領域や研究テーマの先行研究調査をするときの参考になればと思っています。

NDBの歴史

NDBは、2008年4月から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、医療費適正化計画の作成、実施及び評価のための調査や分析などに用いるデータベースとして、レセプト情報及び特定健診・特定保健指導情報を格納し、構築しているものです。2)

2011年度には、医療費適正化計画に関連する調査や分析以外にも、医療サービスの質の向上などを目指した第三者提供(政策立案者や研究者)が開始されました(2013年度から本格始動)。 

さらに多くの人々がNDBデータに基づいた保健医療に関する知見に接することができるよう、2016年10月には「第1回 NDB オープンデータ」として厚生労働省ホームページから基礎的集計表が公開されることとなりました。

そして、2020年10月からは民間事業者等への第三者提供や他のデータベースとの連携解析が制度化され、NDBの利活用が期待されています。

NDBに含まれる情報の詳細は、厚生労働省による「NDBの利用を検討している方へのマニュアル(執筆時:2021/6/2 12:00更新版)1)をご覧ください。

調査方法

  • 調査論文
    第50回レセプト情報等の提供に関する有識者会議 資料4(令和2年9月11日)」に書かれている第三者提供の成果物集計のうち、発表形式が「論文」となっている成果物23論文を対象としました。
    • 一つの研究に対して、複数の発表形式で成果物が報告されているため、今回の調査では「論文」のみを対象としています。
    • 発表形式が「論文」のものは24本ありますが、うち1本はプロトコル論文であったため、それは除外しています。
    • NDBオープンデータはここに含まれていません。
  • 調査方法
    アブストラクトを確認し、疾患領域と研究テーマの分類をしました。
    • 疾患領域:ICD-10を参考にし、以下の疾患領域に分類しました。
      • 感染症
      • がん
      • 血液疾患
      • 内分泌・代謝疾患
      • 精神疾患
      • 神経疾患
      • 眼疾患
      • 耳疾患
      • 循環器疾患
      • 呼吸器疾患
      • 消化器疾患※1
      • 皮膚疾患
      • 筋骨格系疾患
      • 泌尿器疾患※2
      • 周産期
      • その他

※ 1: 歯科領域も含む

※ 2: 生殖器系疾患も含む

  • 研究テーマ
    • 医療資源分析・コスト
    • 有効性調査
    • 有害事象・副作用・合併症調査
    • 患者実態調査
    • 治療実態
    • 費用対効果
    • 服薬アドヒアランス・治療継続率
    • バリデーション
    • 臨床予測
    • リスク因子調査
    • その他

疾患領域ごとの内訳

疾患領域では、内分泌・代謝疾患、感染症が多いことがわかりました。

  • 内分泌・代謝疾患では、患者数の多い糖尿病に関する論文が多く見られました。
  • 感染症では、デング熱、非結核性抗酸菌、小児抗菌薬適正使用加算に関する論文など多様な疾患に関する論文が見られました。

研究テーマごとの内訳

研究テーマは、「治療実態」、「患者実態調査」の2テーマが多く見られました。

  • 治療実態では、処方実態調査やガイドライン遵守率、ある治療の普及率を調査していました。
  • 患者実態調査は、併存疾患調査、疾患発生率や地域差というようにNDBの悉皆性の高さを利用した研究が多くみられました。

疾患領域と研究テーマを合わせた内訳

調査した論文数が少なかったこともあり、疾患領域と研究テーマを合わせてみても大きな偏りはありませんでした。

  • 「感染症における治療実態調査」は以下の3つ論文でした。
    • デング熱治療がガイドラインに遵守しているかどうかの調査3)
    • 非結核性抗酸菌感染症の治療実態調査4)
    • 小児抗菌薬適正使用加算導入後の抗菌薬処方への影響調査5)
  • 「筋骨格筋系疾患における患者実態調査」は以下の3つの論文でした。
    • 股関節骨折の発生率とそれに伴う地域差の調査6)
    • 血清AST、ALTと骨格筋量の関係調査7)
    • 高い血清ASTと体重低下の関係調査8)

NDBの利点

NDBの利点は以下の通りです。9)

  • 日本全国で実施された保険診療のほぼ全てが網羅された悉皆性の高いデータベースであり、母集団代表性に優れる。
  • 保険者からデータを収集しているので、患者が異なる病院やクリニックを受診しても個人レベルでの追跡性が担保されている。

この利点を生かしてNDBでは以下のような研究が可能です。1)

  • 匿名レセプト情報を用いて、診療に関するさまざまな事項を集計できる。
    •   例:診療行為や投与された医薬品、診療報酬等についての、都道府県別、性別、年齢階級別の実績
    •   例:上記の実績に、傷病名や保険者の種別情報などの情報を加えた、多角的な評価
  • 特定の事例を時系列で追跡することで、疾患毎にどのような処置がもたらされる状態になったか等について分析できる。
    • 例:COPD患者における、その後の在宅酸素療法導入の実態評価
  • 匿名特定健診等情報を用いて受診者の健康状況を研究できるとともに、匿名レセプト情報と紐付けることで、診療に関連するさまざまな事項を健診情報と関連づけて分析できる。
    • 例:運動習慣のある受診者のうち、メタボリックシンドロームを有する患者の割合
    • 例:地域別、性別、年齢階級別に見た、食習慣や飲酒、喫煙についての情報  例:メタボリックシンドロームの基準を満たす特定健診受診者1人あたりの、平均医療費

NDB利用のハードル

このように、NDBでは他のデータベースにはない特徴を備えていますが、利用にはいくつかハードルがあります。9)

  1. 厳格な申請システム
  2. 利用承諾からデータ入手までに長時間を要する
  3. NDBデータ入手後のデータハンドリングが困難

今回の調査でも上記の利点を生かした論文が複数みられましたが、まだ成果物の数は少ない印象です。このようなハードルを乗り越える手段の一つとして、NDBユーザー会ではNDBの申請や利用に役立つ資料を公開しています。

最後に

2020年10月からは民間事業者等への第三者提供や他のデータベースとの連携解析が制度化され、NDBのさらなる利活用が期待されています。利用までのハードルが高いNDBではありますが、臨床研究や行政施策に貢献するためにも、その利活用がより促進されることに今後も注目です。

関連記事

引用

  1. 厚生労働省「NDBの利用を検討している方へのマニュアル(執筆時:2021/6/2 12:00更新版)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000678470.pdf
  2. 厚生労働省「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報の提供に関するホームページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/reseputo/index_13898.html
  3. Kajimoto Y, Kitajima T. Clinical Management of Patients with Dengue Infection in Japan: Results from National Database of Health Insurance Claims. Am J Trop Med Hyg. 2020 Jan;102(1):191-194. PMID: 31701854
  4. Igari H, Yamagishi K, Yamazaki S, Murata S, Yahaba M, Takayanagi S, Kawasaki Y, Taniguchi T. A retrospective observational study of antimicrobial treatment for non-tuberculous mycobacteria disease using a nationwide claims database in Japan. J Infect Chemother. 2020 Apr;26(4):349-352. PMID: 31727566.
  5. Okubo Y, Michihata N, Uda K, Kinoshita N, Horikoshi Y, Miyairi I. Impacts of Primary Care Physician System on Healthcare Utilization and Antibiotic Prescription: Difference-in-Differences and Causal Mediation Analyses. Pediatr Infect Dis J. 2020 Oct;39(10):937-942. PMID: 32502123.
  6. Tamaki J, Fujimori K, Ikehara S, Kamiya K, Nakatoh S, Okimoto N, Ogawa S, Ishii S, Iki M; Working Group of Japan Osteoporosis Foundation. Estimates of hip fracture incidence in Japan using the National Health Insurance Claim Database in 2012-2015. Osteoporos Int. 2019 May;30(5):975-983. Epub 2019 Jan 16. PMID: 30648192.
  7. Shibata M, Nakajima K, Higuchi R, Iwane T, Sugiyama M, Nakamura T. High Concentration of Serum Aspartate Aminotransferase in Older Underweight People: Results of the Kanagawa Investigation of the Total Check-Up Data from the National Database-2 (KITCHEN-2). J Clin Med. 2019 Aug 22;8(9):1282. PMID: 31443545.
  8. Shibata M, Nakajima K. High Serum Aspartate Aminotransferase, Underweight, and Weight Loss in Older People: Results of the KITCHEN-4. Healthcare (Basel). 2020 Mar 25;8(2):69. PMID: 32218224.
  9. 「超入門!スラスラわかるリアルワールドデータで臨床研究」著者:康永 秀生, 金芳堂
二宮 英樹 CEO

ラ・サール高校、東京大学医学部医学科卒業。脳神経外科を経て、株式会社メドレーではオンライン病気事典及び遠隔診療に従事した。株式会社トライディアでデータサイエンティストとして、企業向けデータ解析・AI開発に従事。株式会社データックを創業。医療データ解析をするなかで、医療データの収集体制づくりの大切さを痛感。医療データ収集システムしてiPad問診システム、医療言語処理技術の開発を行っている。「医療4.0」では日本の医療革新に関わる医師30人に選出。

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