製造販売後DB調査

製造販売後データベース調査の事例紹介

はじめに

改正GPSP省令施行1)から数年が経過し、これまでにRWDを利用した製造販売後データベース調査の実施・計画がいくつか行われています。調査の実施計画は医薬品リスク管理計画書(RMP: Risk Management Plan)に書かれています。各データベースを選んだ理由・製造販売後データベース調査を実施する上で重要な検討事項など、事例から多くのことを学ぶことができます。今回はそのような製造販売後データベース調査の事例を2つ紹介します。
※紹介する事例は2021.07.02に閲覧した情報です。最新の情報は検索の上、ご確認ください。

製造販売後データベース調査の検索方法

個別の医薬品で調査内容・計画知りたいときは医薬品リスク管理計画書(RMP)を検索します。検索方法は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「医療用医薬品 情報検索」ページ(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)にアクセスし、「医薬品リスク管理計画(RMP)」のチェックボックスが有効になっている状態で検索を実行します。

検索したRMPのうち、製造販売後データベース調査を実施・計画している場合は「追加の医薬品安全性監視活動」に調査目的や実施計画、実施計画の根拠が書かれています。

事例紹介①:ミネブロ錠®(エサキセレノン)

ミネブロ錠®(エサキセレノン)は「重要な特定されたリスク」の一つである高カリウム血症の安全性監視活動として製造販売後データベース調査を2つ計画しています。

【追加の医薬品安全性監視活動】

  • 製造販売後データベース調査(適正使用状況及び高カリウム血症発現状況の確認)
  • 製造販売後データベース調査(対照薬と比較した高カリウム血症発現割合の評価)

「対照薬と比較した高カリウム血症発現割合の評価」の実施計画はRMPでは”検討中”と書かれていますので、今回は「適正使用状況及び高カリウム血症発現状況の確認」の実施計画を以下に紹介します。

こちらの調査はEBM Provider®と MID-NET®の2つのデータベースを使用しています。実施計画の根拠にはデータベースを選んだ根拠とその使いわけについても書かれていますので、データベースを選ぶ参考にもなります。

製造販売後データベース調査(適正使用状況及び高カリウム血症発現状況の確認) 

【安全性検討事項】

  • 高カリウム血症

【目的】

  • 実地医療における適正使用の遵守状況及び高カリウム血症の発現状況を確認する。 

【実施計画】

<データベース>

  • メディカル・データ・ビジョン株式会社の医療情報データベース EBM Provider®
  • MID-NET®

<調査の対象期間(データ期間)>

  • EBM Provider®をデータソースとする調査:2008年4月〜2023年9月
  • MID-NET®をデータソースとする調査:2009年1月〜2023年9月 

<調査デザイン>

  • コホートデザイン

<対象集団>

  • 本剤を処方開始された高血圧症患者

<想定症例数>

  • EBM Provider®をデータソースとする調査:15,000 名 
  • MID-NET®をデータソースとする調査:3,100 名 

<アウトカム定義に用いるデータ項目> 

  • 血清カリウム検査の実施:診療行為コード
  • 高カリウム血症:臨床検査値 

【実施計画の根拠】

<調査の方法>

製造販売後データベース調査を実施する根拠

  • 本剤処方、血清カリウム検査の実施、及び高カリウム血症の発現を把握できる医療情報データベースが利用可能であることに加え、選択バイアスを極力排除の上、本剤の適正使用状況を把握するためには、医療情報データベースを用いた分析が有効と考えられることから、製造販売後データベース調査を実施する。

EBM Provider®を利用する根拠

  • 本剤は、大学病院等の大規模病院に限定されず、幅広い規模の医療機関での使用が想定される。また、本剤は高齢の患者に多く処方されると考えられ、アウトカムである血清カリウム検査の実施有無は診療行為コード、高カリウム血症は臨床検査値データで定義可能である。
  • そこで、幅広い規模の医療機関を対象施設とし、高齢患者データを含み、対象施設全てで診療行為コード、一部で臨床検査値データが利用可能であるメディカ ル・データ・ビジョン株式会社の医療情報データベースEBM Provider®をデータソースとして調査を行う。
  • 本調査では、本剤の重要な不足情報である腎機能障害患者を対象としたサブグループ解析も実施する。

 MID-NET®を利用する根拠

  • MID-NET®では、本剤の重要な不足情報である①腎機能障害患者及び②アルブミン尿又は蛋白尿を伴う糖尿病患者の定義、並びにアウトカムである高カリウム血症の定義に必要な臨床検査値データが全施設で利用可能であるため、MID-NET®をデータソースとして同様の調査を行う。
  • 本調査では、腎機能障害患者に加え、アルブミン尿又は蛋白尿を伴う糖尿病患者を対象としたサブグループ解析も実施する。  

<調査デザイン>

  • 新たに本剤を処方された高血圧症患者を対象とし、高カリウム血症の発現状況等を確認するため、単群のコホートデザインとした。   

<想定症例数>

  • EBM Provider®をデータソースとする調査:15,000名 
  データ期間から想定される、組み入れ基準に合致する解析対象集団15,000名
  添付文書に従い血清カリウム検査を実施した患者の割合を50~90%と想定した場合 本剤の高カリウム血症の発現割合を2.0~5.0%程度と想定した場合
95%信頼区間の精度(片側幅) 0.5%~0.8% 0.6%~1.0%

→いずれの想定も十分な精度を保っていると考えた。   

  • MID-NET®をデータソースとする調査:3100名
  データ期間から想定される、組み入れ基準に合致する解析対象集団3,100名
  添付文書に従い血清カリウム検査を実施した患者の割合を50~90%と想定した場合 本剤の高カリウム血症の発現割合を2.0~5.0%程度と想定した場合
95%信頼区間の精度(片側幅) 1.1%~1.8% 0.5%~0.8%

→いずれの想定も十分な精度を保っていると考えた。

【節目となる予定の時期及びその根拠】 

定期的に集計を行い、結果を安全性定期報告時及び調査結果報告書作成時に報告する。 

【当該医薬品安全性監視活動の結果に基づいて実施される可能性のある追加の措置及びその 開始の決定基準】 

集計結果に応じて、会社が必要と判断した際には追加のリスク最小化活動又は追加の医薬品安全性監視活動の実施を検討する。 

事例紹介②:イブランス錠・カプセル®(パルボシクリブ)

改正GPSP施行後は安全性検討事項ごとに具体的な懸念事項を明確化し、複数種類の製造販売後調査を実施する事が可能となりました。イブランス錠・カプセル®(パルボシクリブ)では、「骨髄抑制(好中球減少)」、「間質性肺疾患」、「肝機能障害患者での使用」について製造販売後データベース調査の計画を立てています。このように、改正GPSPの施行により、一品目で複数のリサーチ・クエスチョンを設定することで、より科学的なアプローチに基づいた製販後調査を実施することが可能になりました。

製造販売後データベースの対象となった安全性検討事項

【重要な特定されたリスク】

  • 骨髄抑制(好中球減少)
  • 間質性肺疾患

【重要な潜在的リスク】

  • 肝機能障害患者での使用

安全性検討事項ごとの実施計画

安全性検討事項 好中球減少 間質性肺疾患 肝機能障害患者での使用
目的 手術不能または再発乳癌患者を対象として、パルボシクリブが投与された患者における好中球減少(グレード4)の発現に影響を与えると考えられる要因(リスク因子)を探索する 手術不能または再発乳癌患者を対象として,パルボシクリブが投与された患者における間質性肺疾患 の発現に影響を与えると考えられる要因(リスク因子)を探索する 肝機能障害患者での安全性を検討する
データベース MID-NET®  検討中  MID-NET®
調査デザイン ネステッド・ケース・コントロールデザイン 検討中  コホートデザイン
対象コホート パルボシクリブを投与した手術不能または再発乳癌患者 検討中  肝機能障害患者であり手術不能または再発乳癌患者
ケース群曝露群 好中球減少(グレード4)を発現している患者 検討中  パルボシクリブ(カプセル・錠剤)使用患者
コントロール群対照群 好中球減少(グレード4)を発現していない患者 検討中  疫学相談等より対照群との適切な比較が可能と判断された場合に設置
アウトカム定義に用いるデータ項目 好中球減少(グレード4)患者:好中球数が500/mm3 未満 検討中  検討中(今後、疫学相談での結果も踏まえて検討する)  ※アウトカム定義の詳細はバリデーション研究あるいは複数のアウトカム定義による感度分析等を踏まえて検討する

最後に

今回紹介したように、RMPを見ることで、製造販売後データベース調査の調査目的や実施計画などから多くのことを学ぶことができます。株式会社EPクロアでは製造販売後データベース調査・製品一覧を公開していますので(https://www.croit.com/service/ermp/)、是非ともご興味のある医薬品を検索してみてください。
※製造販売後データベース調査についてもご相談を受け付けていますので、こちらよりお問い合わせください。

引用

  1. 厚生労働省令 第116号 「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令」平成29年10月26日https://www.pmda.go.jp/files/000220766.pdf
二宮 英樹 CEO

ラ・サール高校、東京大学医学部医学科卒業。脳神経外科を経て、株式会社メドレーではオンライン病気事典及び遠隔診療に従事した。株式会社トライディアでデータサイエンティストとして、企業向けデータ解析・AI開発に従事。株式会社データックを創業。医療データ解析をするなかで、医療データの収集体制づくりの大切さを痛感。医療データ収集システムしてiPad問診システム、医療言語処理技術の開発を行っている。「医療4.0」では日本の医療革新に関わる医師30人に選出。

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